令和元年度 風景学習

令和元年度は、浦添市立前田小学校の3年生を対象として総合的な学習時間(ふるさと学習)を中心に「風景学習」を組み入れ、地域の再発見から「前田の自まんを伝えあう」学習が取り組まれております。

都市モノレールが延長し周辺状況が変化していく中で、前田地域の伝統やワカリジーなど歴史資産、モノレール車窓からの風景、まちなみの今昔について目を向け、児童の自主的な学びや気づきを大切にして、学校と地域コミュニティ、浦添市、NPO等が連携して取り組む風景学習のプログラムが展開されました。

児童においては「地域に大切に残された伝統を今後も守りたい」「前田の自まんをもっと知らせたい」「地域を汚さないようにしたい」「前田にモノレールとワカリジーもあってすごいなぁ」など、自分たちのまちとして前田地域に対する愛着や誇りが芽生えており、また、先生がたの熱心な取り組みにより、保護者や地域住民など周りの大人達も、児童と一緒に学習する過程で地域の魅力を再認識する機会となりました。

今後も、これまでの取り組みをモデルとして学校や地域との連携体制を深め、地域に根ざし個性に富んだ学習活動が県内の小学校へ広く普及するよう、風景学習の取組みを進めてまいります。

前田小学校(令和元年度)

前田の自まんを伝え合おう

学習のねらい
  • 開発が進む前田地域をゲストと一緒に歩いて、土地の由来や昔から残る井戸、行事等にふれて、地域の伝統文化やまちの良さに気づく。
  • モノレールの車窓の眺めから、地域ゆかりのシンボル風景の保全と新たなまち並みの調和について考える。
  • 地域との交流から生活の知恵や伝統への思いを知り、地域を大切に思う心と主体的に学ぶ態度を養う。
  • 各自が調べた前田じまんを自身の言葉で伝え、今後の学習行動へ活かすことを考える。(SDGs へ)
学習活動
  • 1学期の浦添市域学習と連動させ、2学期は総合学習に「風景学習」を組み入れ、児童が住んでいる前田地域をゲストと一緒に探検した。ワカリジーの丘を歩き、また、モノレール車窓からの前田の風景の特徴(丘の流れや新たなまち並み・赤瓦屋根)を確認した。各自の気づきや関心からグループ学習を進め、前田じまんをとりまとめて発表・共有した。〔* NPO 支援協力/ 講師派遣〕

    ① R1.9下旬   風景学習オリエンテーション(*)
    ② R1.9.25    前田の由来(自治会長講話)
    ③ R1.10.3    前田のまち歩き(*)
    ④ R1.10.4   心に残った風景を記録(*)
    ⑤ R1.10中旬  課題設定と学習計画準備
    ⑥ R1.11.7   ワカリジーとモノレールから風景を捉える(*)
    ⑦ R1.11~12   調べ学習~制作活動(個人新聞、紙芝居等)
    ⑧ R1.12中旬  取りまとめ作業、中間報告会(*)
    ⑨ R2.1上旬   発表会の準備作業、発表練習
    ⑩ R2.1.15    発表会と振り返り(*)
    ⑪ R2.3     県及び市役所で展示発信活動(*)

準備品

<探検学習等>

  • ワークシート、カメラ(学校)
  • 補助記録、マーカー(学校、NPO)
  • 探検バッグ、水筒と帽子、筆記具(児童)
  • 熱中症対策用のあめ玉・塩(NPO)

<学習参考資料の提供(NPO、景観行政)>

  • 前田の風景資源マップ、探検ルートマップ
  • 古写真、白地図、モノレール関連資料
  • 浦添市景観まちづくり、歴史文化関連資料
  • 風景学習実施計画及び調整資料
実施体制
  • 授 業 実 施/前田小学校
  • 事 業 主 体/沖縄県土木建築部都市計画・モノレール課
  • 連携・協力/浦添市都市建設部美らまち推進課

          浦添市教育委員会教育部文化財課

  • 企画・進行/NPO沖縄の風景を愛さする会(安里直美)
  • 講 師 協 力/前田自治会・かりゆし会・地主会

          (石川仁孝・親富祖正市・親富祖善信・親富祖政昇)

          うらおそい歴史ガイド友の会(親富祖・粟森・古波蔵)

学習の流れ

R1/5~7月【市域学習】(12h)

概要
  • 1学期/ 社会科:学校周辺を東西方向に探検したり浦添市の主な公共施設や通り等をバス見学して、東西南北の土地の様子、地形的特色を捉えた。場所による違いなど「気づき」を絵地図やパンフレットにまとめ、グループごとに浦添市の特徴を紹介した。

前田の「風景」にふれる(7h)

【オリエンテーション等】

概要
  • 2学期/ 総合(ふるさと学習)/ 風景学習導入オリエンテーション:周辺開発が進む中、地域に残る伝統や昔から今につながる「風景」に目を向け、地域を歩き地域の人と関わることで「前田の宝さがし・自まんを伝えあう」学習を始めることを児童に伝える。(→テーマ:探検・発見・ほっとけん)

【事前学習】9/25(1h)、10/2(1h)

  • 事前学習
場所
  • 多目的教室
概要

【自治会長講話】2学年の学習よりも地域の方々の思いや知恵に学び前田の良さを深く広く見つけることを意識づける。

  • ワカリジーや小湾川、井戸や通りの配置など前田の土地の様子と併せて「前田の由来」や「棒術、綱引き」行事について自治会長から話を聞く。
  • 後日、前田の通りの特徴を捉えながら、小学校からの探検ルートを確認する。

R1/10/3【まち歩き】まち探検(4h) 地域の宝さがし〜前田の自まんを伝えよう〜

  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 児童の反応
  • 児童の反応
場所
  • 小学校 → 校庭 → 自治会館広場 → 綱引きの道(印) → 井戸・生活道 → 前田権現 → 井の大人川(イノーシガー) → 浦添/前田駅 → 小学校
概要
  • 先生の進行で、まち歩きのねらいを確認後、スタッフを紹介。様々な立場の人が活動に関わることを捉えさせる。
  • NPO の進行で校庭前の眺望(ワカリジー・グスク丘陵)について問いかける。
  • 3学級一緒に自治会館へ移動。要所で見えるワカリジーに気付かせる。
  • 自治会館広場:学級ごとに整列。ガイドの進行で学級別のルートで、綱引きの道や古井戸、拝所などを訪ねて話を聞く。各自、わかったことをワークシートに記録する。
  • 古井戸の今昔の使われ方、なぜ残されているか、地域の生活、信仰や伝統との関わり、見過ごしている風景に気づかせる。
  • モノレール駅:浦添市職員よりまちづくりの話を聞く、建築物高さの制限とワカリジーの眺望保全、赤瓦屋根、鬼瓦のレリーフ使用など、らしさのデザインの工夫を伝える。
児童の
反応
  • 意欲的に取り組もうと元気な返事をしていた。
  • 「ワカリジーは前田のシンボル」
  • 井の大人川の水に触れ「冷たくて気持ちいい」「水が豊富だな」
  • 「 赤瓦と周りの樹木の緑色が似合ってきれい、残して欲しい」
  • モノレールの走行を見て新旧が交差するまちを感じ取っていた。
  • ガイドの話からわかったことを各自がシートに記録していた。

【振り返り】後日(1h)

  • 活動記録
場所
  • 教室
概要
  • 後日、探検を振り返り、各自の「心に残った風景(場・コト・人)」記録し、調べ学習に向けて関心事を引き出す。

    「古い井戸と新しいモノレールがあるのが良かった」「次はワカリジーの場所まで行って調べてみたい」「井戸をもっと調べてみたい」「モノレールからも前田の景色を見てみたい」

つかむ / 深める(5h)

R1/11/7【モノレールから前田の風景を感じる】【ワカリジーを歩く】(3h)

R1/11/8・11【新聞制作】(2h)


  • グスク丘陵と分かれ立つ
    ワカリジー(巨岩)を探求する
  • 児童の反応
場所
  • モノレール経塚駅乗車 → てだこ浦西駅 → 浦添前田駅下車 → ワカリジージリチン毛 → 教室
概要
  • NPOの進行で駅舎内のアートガラスを観察し、車中からのワカリジーの景色や新たなまちなみ・赤瓦屋根の広がりを確認する。
  • ジリチン毛(拝所)から前田小や緑地、駅、海方向の眺望を確認する。
  • 市職員の案内でワカリジーを歩き、地域の文化財の取り組みを学ぶ。
  • 感動したことを後日、新聞にまとめる。
児童の
反応
  • ワカリジー岩肌に貝殻を見つけたことで昔は海底にあったことが理解できた。
  • 不思議な巨岩の存在を目の前にして、様々な疑問をゲストに問いかけた。

広げる(4h)

R1/11〜12月【課題設定と調べ学習】

場所
  • コンピュータールーム
  • 図書館
  • 教室
概要
  • まち歩きのルートを白地図で再確認し、地域で大切に守られてきた伝統や井戸、風景・まちなみの今昔について各自の学習を問いかける。
  • 興味関心事で8つのグループ(前田棒、ワカリジー、前田権現、綱引き、井戸、井の大人川、モノレール・赤瓦)に分かれ、ワークシートをもとに副読本、インターネット等活用して調べ学習を進め、紙芝居に取りまとめ中間報告を行なった。

まとめる/ 伝える(6h)

R2/1月【制作会・発表準備活動】(3h)

R2/1/14【リハーサル】(1h)

R2/1/15【発表会】(2h)※授業参観日

  • 学習概要
  • 学習概要
  • 学習概要
  • 学習概要
  • 児童の反応
場所
  • 各教室
  • 多目的広場
    ※ 発表会後に、学習成果を県庁ロビー、浦添市役所ロビーで展示発信
概要
  • 見つけた前田自まんをわかりやすく伝えるためにグループで話しあって作業を進める。模造紙に貼り付け見せ方を工夫する。
  • 聞いている人に伝えたいことや思いが伝わるように、発表態度や資料の示し方に注意してリハーサルを行う。
  • 発表会:見つけた前田じまんを大切に残していくために自分たちができることを互いに発表しあう。
  • 友達の発表を聞いて自分の気づきや感想をワークシートや発見カードに記入する。
  • 学級全体で発表や感想を振り返り、前田地域の良さ、伝統やまちの魅力を共有する。
  • 保護者や地域の人から、発表の感想を聞く。
児童の
反応
  • 見出しや吹き出しでポイントを強調するなど伝えるための協働作業に取り組んだ。
  • 「伝統は昔から大切にされてきたものなので残したい」、「前田の良さを知らない人にもっと伝えるようにする」など、各自の思いを伝えていた。
  • 友達の発表を聞いて多くの気づきをノートに記録していた。各児童が素直に地域の良さを捉えようとしていた。

振り返る(1h)

R2/2月

場所
  • 教室
概要
  • これまでの学習を振り返り、次の学習やまちづくり活動に活かすことを考える。

児童の作品 (一部掲載)

伝統や古い井戸等が残る前田地域の良さやまちの魅力を再発見しようとゲストと探検したり、モノレール車窓から風景を捉えたりした。自らの気づきを振り返りテーマ別にグループ学習を進めて「前田じまん」を工夫してまとめた。

先生の声

実施にあたり苦労した点

  • 児童の意識づけで、学習の目的である地域への愛着とこれからも大切にしていこうという気持ちにつなげていくための「手立て」を考えるのが大変であった。
  • 調べ学習の際、言葉や意味が3年生の段階では難しいことがあり、教師の補足説明が必要であった。
  • 数少ない資料の中で、紙芝居形式にして、それぞれの絵に対する説明を詳しく書きまとめる活動は難しいようであった。
  • 取りまとめや発表練習の時間確保が必要だった。

工夫した点

  • 社会科の浦添市学習と関連させて自分が住んでいる前田地域の特徴や伝統文化に気づかせるカリキュラムマネジメントに取り組んだ。
  • 昨年度の課題から今年度は、実際にワカリジーまで歩き観察した。また、モノレールに乗りまちを眺望し、市の3駅周辺を歩き様子を知ることで、今後も発展し続ける浦添市のことを深めることができた。
  • まとめる作業では、絵や文での表現の方法を児童の個性に合わせて活動ができたことで、意欲的に取り組む子が多かったと思う。
  • 授業参観日に保護者や地域の方々に向けて発表会を行ったことで、感想や助言を頂くことができた。
  • これからも開発が進む中、地域の文化財をどう残していくか、自分事として意識させながら「現在」「過去」「未来」で考えさせた。

教師として得られた点

  • 地域の方々やNPO、沖縄県、浦添市と一体となって学習することで、広い視野で取り組み、児童の知識・理解を深めさせることができた。学校だけではできない活動もできた。教師自身も勉強になった。
  • 教科書や資料だけの通り一遍の学習に留まらず、地域を見て歩き、また地域の方々の生の声を聞くなど、地域の方々の想いを感じとる(活動を行う)ことができたと思う。
  • 日頃何気なく通っていた井戸の道周辺を「これから汚さないようにしたい」という意見から地域に対する愛着が芽生えたのを確信できた。
  • 地域に住む方と交流を持つ機会が増え、つながりが持てたことが良かった。

児童の反応

  • 昔から大切にされてきたものや歴史を知ることができた。石川仁孝さんの話を聞いてもっと調べたいという想いが高まった。
  • 身近な地域に多くの文化遺産・伝統文化が残されていることに気づき、地域の想いを尊重し大切にしたいという気持ちを持つことができた。前田は自慢できる町であり、その文化遺産を守りつつ、自分たちが前田を住みやすい地域にしていこうという気持ちが芽生えている様子が見られる。

保護者の感想

  • 「子ども達の発表を聞いて前田のことがよくわかった。今まで気づかなかった地域の宝物に気づかされ前田を誇りに感じた」「風景が違って見えてきた、前田を散歩してみようと思う」「これから子ども達の前田の文化財や伝統行事を一緒に守っていきたいと思う」など、地域を再認識する声が上がった。