ユートピアの風景

何本かの映画を那覇やコザを舞台に撮影した後で、次はユートピアのような風景の中で撮影したいと考えた。私にとってのユートピア、それはフクギ林に守られた、赤瓦の村落。沖縄ではありふれていて、簡単に見つかるだろうと考えた。が、当てが外れた。どこにも残っていないのだ。八重山の島々へも足を伸ばしたが、見つからない。ある離島の民宿で「渡名喜島見た? あそこはそういう風景、残っているはずよ」と教えてもらった。

地図を見ると、慶良間と久米島の間に、渡名喜島が浮かんでいる。那覇に戻り、フェリー。船が着いた島の表玄関は、普通だった。立派な役場に小学校。コンクリートの公共施設。どこにでもある離島の風景。気を取り直し村の中へ。

突然フクギ並木が始まった。すっぽりと村を覆い隠すほどの巨木。その中に、埋もれるように赤瓦の古民家群。奥に入り込むほど、木々は鬱蒼と繁り、民家は古色を帯びてくる。と、思いもかけないあっけなさで島の反対側に出た。そこには美しい砂浜が広がっていた。

民宿に泊まり、翌朝、散歩に出かけた。村のあちこちで、子供たちに出会う。彼らは竹箒を持ち、白い海砂の敷き詰められた村の路地を掃除している。ユートピアは偶然この島に残っている訳ではなかった。島の人々の「残そう」という努力の賜物だったのだ。私はこの島で映画を撮らせてもらうことにした。島の人々の邪魔にならないように。

映画監督 中川陽介