古民家の佇まい

古民家の佇まい

沖縄の北部、今帰仁村からフェリーで1時間ほどのところに伊是名島がある。

先日、23年ぶりに伊是名島を訪れたのは、フクギに囲われた集落が残っているか?を確認するためと、久々に「銘苅家」を見てみたいと思ったからだ。

フクギの屋敷林は、残念ながら残り少なかったのだが、「銘苅家」は昔のままにあった。

その簡素で素朴で品のある佇まいに再び惹きつけられた。

その「心地よい佇まい」はどこからくるのだろう?と実測し、抑え込まれた寸法を読み取った。つくりて(建主も含む)の「良い意志」が伝わってくる。

建築はこうありたい、「佇まい」を考え直したいと素直に思わせるだけの魅力があった。

「佇まい」は建築、環境、設備、素材などのさまざまな難しい全体のまとめ方から醸し出さるつくり手(設計者、建主を含む)の良い「意志」(傲慢な表現ではなく)が現れて欲しい。「良い佇まい」はその地の空気となって建築を包み込む。

その空気を設計したいと思う。

建築士 伊礼智

カトリック与那原教会(聖クララ教会)

カトリック与那原教会(聖クララ教会)

与那原町にあるカトリック与那原教会(聖クララ教会)。
その地に象徴的に存在するよう、道路正面の丘の上に配置されています。
子供のころから、きれいな教会だなと思っていました。

1958年竣工、設計者:片岡献+SOM(アメリカ)
日本の近代建築100選にも選ばれたこの教会。
配置(斜面の処理の仕方)がうまいな・・・と思いました。
ステンドグラスの開口部の正面は視界が開け、与那原の町が一望できます。

その前に椰子の木を植え、斜面をつくり、通路を確保したあと、
さらに斜面、その下に植栽を施していますが、
それが下からの景観づくりに効いています。

たぶん、下からの風の吹き上げを防ぐ効果もあったのだと思います。
建築だけでなく、土木工事にも手を掛けないとつくれない景観だと思いました。

陽差しがきつい面には穴あきブロックを施して日射を遮蔽しています。
このブロックは後に「花ブロック」と呼ばれ、多彩なバリエーションへと展開し、
沖縄のブロック造の特徴となっていきます。

中庭と回廊を隔てる花ブロックは
タテ使いとなっていて、外部と表情を変えています。

中庭はグルッと一周できるようになっています。
入り口から数段上がって礼拝堂へアプローチするやり方もちょっとうまい。

この教会の特徴はモダンなステンドグラスの開口部。
そして地域性を考えて、畳式と椅子式の座席。

懐かしくて美しい、これからもそんな沖縄の建築物をみて歩きたい。

建築士 伊礼智

ユートピアの風景

ユートピアの風景

何本かの映画を那覇やコザを舞台に撮影した後で、次はユートピアのような風景の中で撮影したいと考えた。私にとってのユートピア、それはフクギ林に守られた、赤瓦の村落。沖縄ではありふれていて、簡単に見つかるだろうと考えた。が、当てが外れた。どこにも残っていないのだ。八重山の島々へも足を伸ばしたが、見つからない。ある離島の民宿で「渡名喜島見た? あそこはそういう風景、残っているはずよ」と教えてもらった。

地図を見ると、慶良間と久米島の間に、渡名喜島が浮かんでいる。那覇に戻り、フェリー。船が着いた島の表玄関は、普通だった。立派な役場に小学校。コンクリートの公共施設。どこにでもある離島の風景。気を取り直し村の中へ。

突然フクギ並木が始まった。すっぽりと村を覆い隠すほどの巨木。その中に、埋もれるように赤瓦の古民家群。奥に入り込むほど、木々は鬱蒼と繁り、民家は古色を帯びてくる。と、思いもかけないあっけなさで島の反対側に出た。そこには美しい砂浜が広がっていた。

民宿に泊まり、翌朝、散歩に出かけた。村のあちこちで、子供たちに出会う。彼らは竹箒を持ち、白い海砂の敷き詰められた村の路地を掃除している。ユートピアは偶然この島に残っている訳ではなかった。島の人々の「残そう」という努力の賜物だったのだ。私はこの島で映画を撮らせてもらうことにした。島の人々の邪魔にならないように。

映画監督 中川陽介

アジア映画と那覇の街

アジア映画と那覇の街

90年代、アジア映画が熱かった。張芸謀(中国)、王家衛(香港)、陳英雄(ベトナム)。独自のスタイルを持った新しい才能たち。ハリウッド映画で育った私には、作家性の強い彼らの作風が新鮮だった。同時に、彼らが切り取ったアジアの街角の風景にも、強く惹かれた。

仕事と生活の場が隣り合わせ。町中に人間の匂いがあふれている。狭い路地にクルマは入れず、ひとが主役。そんなアジアの路地裏の風景は、私に郷愁を抱かせた。小学生時代、60年代の東京を思い出させるのだ。

長く勤めた出版社を辞め、映画を撮ることにした。アジアの映画で見たような、生命力にあふれた街を求め、旅をした。しかし日本のどの街も、整然としすぎていて、どこも活力不足に思えた。祈るような思いで訪れた那覇の路地裏で、私は求めていた情景に出会った。日本のどの街も持ち得ない、活気と人間くささに満ち、古びてはいるが、住む人の気配りの感じられる美しい街、那覇。

その日は一日中、スージグワァと呼ばれる裏町を歩いた。住所で言えば、那覇市松尾、牧志周辺。歩いては写真を撮り、疲れたらすり減ったコンクリートの道に座り、ぼんやりと街の音に耳を傾ける。子供の笑い声、テレビアニメの音声、食器のふれあう音、室外機のモーター音。迷路のような細い道を歩くうちに、路地奥の狭い空が群青色に染まりはじめた。夜が明けようとしていたのだ。その朝、私はこの街で映画を撮ろうと思った。1997年のことだ。

映画監督 中川陽介

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