平成30年度 風景学習

平成28年度から今年度で3年目の取組みとなった那覇市立壺屋小学校では、3年生のカリキュラムとして総合的な学習の時間において、壺屋のまちじまんをテーマに、風景学習としての体験学習(まち歩き、工房・登り窯見学等)や調べ学習が取り組まれました。

こうした様々な学習活動を通して、児童一人ひとりが感じ取ったまちの景観や壺屋の良さを、自らの言葉でとりまとめ発信しています。

「壺屋のまちじまんを大人になっても残したい」「陶工さんの心をこめた技はすごい」「壺屋は昔ながらのやちむんのまち」「古い赤瓦の家や井戸も多く残っているのが魅力」「壺屋で生まれて本当によかった」「多くの人に壺屋のことを伝えたい」など、児童においては伝統を守り育ててきた地域の方がたへの感謝の気持ちやまちに対する誇り、担い手意識が芽生えました。また、先生方や保護者、関係者(地域自治体や自治会組織、NPO)等周りの大人達も、児童と一緒に学習する過程で身近な風景の価値を再認識し共感する機会となり、さらに、人材の発掘につながり地域との連携が深まるなど効果が確認できました。

このような風景学習の取組みと成果を踏まえつつ、今後も、沖縄の地域に根ざし個性に富んだ風景学習活動が県内の小学校へ広く普及するよう、取組みを進めてまいります。

那覇市立壺屋小学校(平成30年度)

壺屋のまちじまん! ~昔から今に続く壺屋の風景~

学習のねらい
  • 古写真を用いて壺屋のまちを歩き、今昔の壺屋焼の風景と暮らし、信仰等について学ぶ。
  • 伝統を守り育てる人達との体験交流を通して、壺屋の特色と魅力、課題に気づかせ、地域を大切に思う心と態度を養う。
  • 各自が見つけた壺屋ならではの町じまんを多くの人へわかりやすく伝え、今後のまちづくり学習へ活かす。
学習活動
  • 総合的な学習の時間を活用して「壺屋のまち」をテーマに思考を広げ、他教科と連動して風景学習活動を広く深く展開した。まちの歴史や風景の今・昔、暮らし・信仰、焼物の店などに目を向けた「まち探検」を行い、「心に残った風景」を新聞に表現した。
    今の壺屋では使われなくなった登り窯(読谷山)の火入れを見学して壺屋焼の原風景と課題を捉えたり、陶器祭りでのインタビューやビラ配りなど、様々な活動を通して捉えた「壺屋のまちじまん」をグループごとに小冊子にまとめて発信した。 ( ※講師派遣、NPO 支援)

    ① H30.5.1   事前学習(社会科町探検)
    ② H30.5.10  風景学習オリエンテーション
    ③ H30.5.29  壺屋のまち探検(※)
    ④ H30.6.6   心に残った風景/ 新聞づくり(※)
    ⑤ H30.6~7  課題設定と調べ学習の計画・準備
    ⑥ H30.8~   夏休みの活動(壺屋焼物博物館見学)
    ⑦ H30.11.21 読谷やちむんの里見学(※)
    ⑧ H30.11~  壺屋陶器祭りの準備と参加活動
    ⑨ H31.1~2  学習のとりまとめ/ 発表準備活動
    ⑩ H31.2.14  学習発表会とふりかえり( ※ )
    ⑪ H31.3.11  展示発信(※)

準備品

<まち探険・調べ学習>

  • 古写真・参考資料(博物館・NPO)
  • ワークシート・ルートマップ(学校)
  • 探検バック・水筒・帽子・筆記具(各自)
  • カメラ・補助記録紙・マーカー(学校・NPO)
  • 大型バス借用(NPO)

<制作発表活動>

  • 画用紙・画材道具・写真・文献、VTR 等(学校・NPO)
  • 陶土(学校・NPO)
実施体制
  • 授 業 実 施/壺屋小学校
  • 事 業 主 体/沖縄県土木建築部都市計画・モノレール課
  • 協   力/那覇市都市計画部都市計画課都市デザイン室

          那覇市市民文化部文化財課

  • 企画・進行/景観整備機構(NPO 沖縄の風景を愛さする会)
  • 講 師 協 力/壺屋焼物博物館学芸員 比嘉立広・嶽元美奈

          やちむん通り会(育陶園)高江洲忠・啓子

          壺屋陶器組合理事長 島袋常秀

          壺屋町民会・自治会長 島袋文雄

学習の流れ

ふれる(8h)

H30/4月【オリエンテーション等】(3h)

概要
  • オリエンテーション:社会科町探検後、児童の壺屋への関心事から、総合的な学習時間を活用して風景学習を始めることを児童に伝える。まちの景観や壺屋の良さについて自分達の考えや気づいたことを発信しようと風景学習のゴールを示し、まち探検の仕方や古い写真から気づいたことを話しあった。

H30/5/29【体験①】まち探検(4h)

【ふりかえり】(1h)

  • 活動記録
    陶器で飾られたサイン!
  • 活動記録
    ビンジュルは神様がいる
  • 活動記録
    東ヌカーの使われ方を知る
  • 活動記録
    昔ながらのすーじ小を歩く
場所
  • 小学校歴史散歩道 → 焼物博物館/ニシヌメー/下ヌカー/やちむん通り → 東ヌカー東ヌ窯 → 育陶園工房/ビンジュルグヮー/すーじ小 → 小学校
概要
  • 担任の指導で学級ごとに整列し、まち探検のねらいやルート、注意事項、各自の所持品を確認する。
  • 学校裏門から「歴史散歩道」を通り、やちむん通りへとつながるサインや舗装デザインの工夫に気づかせる。
  • ゲスト講師から、壺屋の成り立ち、行事等の話を聞き、古写真を参考に今昔の風景の変化をノートに記録する。
  • 古写真を参考に今昔の風景の変化の様子を捉え、気づいたことをノートに記録する。
  • 国指定重要文化財の新垣家・東ヌ窯を見学し、荒焼と上焼きの窯の違いを知る。
    育陶園工房
  • 育陶園工房に立ち寄り、壺屋焼の工程を見学する。
  • まち探検を振り返り、「心に残った風景」を記録する。
児童の
反応
  • 「道案内のサインで工夫しているところはどこか」
  • 「なぜ壺屋というのか?」
  • 「昔の写真と今の風景はどこが違う?」
  • ゲストとのやり取りや風景を眺めては、気づいたことを懸命にノートにとっていた。
  • 今も大切に使われている井戸や昔から残る風景が壺屋にはたくさんあるとわかった。
  • 工房では陶工の作業を熱心に眺めたり、ガス窯の煙突を見つけては壺屋では今でもやちむんづくりをしている風景があることに気づいた様子だった。
  • 壺屋の由来について「約330年前から焼物(壺)をつくっていた土地だから」との話に納得していた。
  • 博物館屋上から見るコンクリート群に驚いていた。
  • 古写真にある石垣やガジュマルの木、井戸が今も残っていることを知って「すごい!」と感動。昔より樹木が成長していることにも気づいた。
  • 「東ヌカーからスージ小に行くようにして馬車道があった」など、これまで知らなかった昔のまちの様子について各自、懸命に記録をとっていた。
  • ガス窯の煙突を発見し、壺屋が今でもやちむんづくりをしているまちであることを理解した。

つかむ(8h)

H30/6/6【表現】新聞づくり(2h)

H30/6/6〜7/19【課題設定と学習計画】新聞づくり(6h)

場所
  • 教室
概要
  • 後日、壺屋のまちについてわかったことを各自が新聞にまとめる。
  • ウェビングにより学習で得た基礎知識を引出し、壺屋のまちについてさらに思考を広げる。
  • 各自の興味につながる課題を見つけ、グループ別に目標、学習計画を立てる。

【自主学習】

概要
  • 夏休みの学習活動で、保護者と一緒に壺屋焼物博物館を見学する課題を与える。

広げる/ 深める(18h)

【事前学習】(2h)

H30/11/21【体験②】読谷山焼(ユンタンザヤキガマ)窯火入れ見学(4h)


  • 使用中の登り窯を見学する

  • 次郎窯の中棚に入る
場所
  • 教室
  • 読谷やちむんの里
概要
  • 登り窯を使われていた頃の壺屋の町の映像(DVD)を視聴し、現在、使われなくなった理由について話し合う。
  • 読谷山焼窯の火入れを見学し、都市部にある壺屋のまちは登り窯をどう活用すればよいかを話し合う。
  • 島袋常秀工房を訪ね、焼物の制作工程や読谷やちむんの里と壺屋のつながり、職人の思いを学ぶ。
児童の
反応
  • 登り窯の火煙は「山火事のようだ」と驚いていた。壺屋のまちでの使用の難しさを感じているようだった。

H30/11/1~24【体験③】陶器祭りの準備と参加(9h)


  • 通りに出て自作のチラシを渡して
    「陶器祭りにいらっしゃいませ」
    と呼び込みを行う
場所
  • 校内グランド / 国際通り~てんぶす館広場
概要
  • 陶器祭りでの3年生の取組みについて話しあう。チラシを作り、通りに出て祭をアピールするなど、自分と社会とのかかわり方を体験する。
  • 博物館出前授業や陶工達との交流から壺屋焼について深く学ぶ。
児童の
反応
  • 各窯元の作品の特徴を捉えたり、通りを出て祭りをアピールしたり、お客にインタビューしたりと、各自が目標をもって祭りに参加していた。

H31/2/22【体験④】焼物教室(3h)

場所
  • 工作室
概要
  • 陶工の指導のもと、面シーサーづくりを体験し、壺屋焼の特徴とは何かを捉える。

 

まとめる/ 伝える(15h)

H30/12/26【制作会】(3h)

H31/1〜2月【制作・発表準備活動】(8h)

H31/2/13【リハーサル】(2h)

H31/2/14【発表会】(2h)

場所
  • 教室
    ※ 発表会後に那覇市ロビーで展示発信
    ※ 小冊子を焼物博物館へ寄贈
概要
  • 壺屋のまちについて振り返り、紹介したい事柄を話し合う。類似するテーマに分かれて発表計画を立てる。
  • グループで話しあい、役割を分担して小冊子づくり、発表の準備を進める。わかりやすく伝えるために絵や写真を使い工夫する。
  • 発表の仕方に注意してリハーサルをする。
  • 発表会では児童主体で司会進行し、各自の成果、思いが保護者や友達に伝わるように発表する。
児童の
反応
  • 斜面地で水も多い壺屋は登り窯を置くのに合っていた等、壺屋の成り立ちや地域素材、今昔の変化を調べて堂々と発表していた。
  • これからも壺屋は焼物のまちであってほしい、壺屋をもっと知ってもらいたい、風景学習でいろんな人にお世話になった等、地域への誇りと感謝が芽生え、自らのまちとして捉えていた。

振り返る(1h)

H31/2/15

場所
  • 教室
概要
  • 今年度の風景学習を振り返り、「私たちのまち、壺屋」について、自分の言葉でまとめることで、自らの目線で今後の学習や行動に活かすことを考える。

児童の作品 (一部掲載)

昔の写真と今の壺屋を見比べながら、まちを探検した。壺屋では使われなくなった登り窯の使われ方を調べるために「読谷やちむんの里」を見学したり、陶器祭りで来客にインタビューしたりして、様々な活動を通して捉えた、「壺屋のまちじまん」を絵や写真を使って発表した。

先生の声

実施にあたり工夫した点・苦労した点

  • まちの景観や壺屋の良さについて自分達の考えや気づきを発信するという風景学習のゴールを示していたので、児童の意識を一つに向けることができた。
  • 活動が長くあいてしまった時は、まちのイメージマップやワークシート、活動の写真等を見直しながら振り返りや確認を行い、次の活動へ児童の意識を高めることにつなげた。昨年度の3年児童がまとめた小冊子を参考にして、児童の学習意欲をさらに引き出し、取りまとめ方のイメージを持たせることができた。
  • 古い写真と今を比べたり、古い壺屋の映像を視聴したが「やちむんのまち」として壺屋の特色や抱える悩み等を理解させるために効果的であった。一方で、何人かの理解できていない子達に理解させるために何度も個別で話合いを重ねたりと大変な面もあった。
  • 読谷の登り窯の火入れを見学できたことは壺屋焼とのつながりや都市化する壺屋のまちの現状について実感を伴って考えることがつながった。

児童の反応

  • 壺屋の町の方から直接昔の話を聞いたり、夏休みに保護者と博物館で学んだり、見学(東ヌ窯、育陶園、読谷やちむんの里等)させてもらえたことなどが貴重な体験として深く心に残ったようだ。
  • いろいろな人との出会いからまちを深く知ることにより、感謝の気持ちを持って自らのまちとしての愛着、誇りを感じることができていた。
  • 「 風景学習」の様々な活動を通して、まちの歴史や祈り、伝統ある壺屋焼について知識を得ながら、他の地域にはない良さがあることを感じ取り、「昔から今に続く壺屋の風景」というテーマのもと、古いものを守り伝えることの大切さやそれがこれからも残ってほしいという願いをもつことができた。

教師として得られた点

  • 児童と一緒に活動することで様々な発見があった。
  • 壺屋の「過去・現在・未来」、「まちづくり」という視点で町の歴史、壺屋焼の伝統、景観について改めて見つめなおすことができた。
  • 地域のその人にしか語ることができない話を聞いたり、工房で陶工の仕事を見学したり、陶器祭など地域の活動に積極的に参加したりという経験は児童にとって将来の地域貢献に大きくつながると思う。キャリア教育において重要なことを再確認できた。

保護者の反応

  • 「 親が勉強になった」、「登り窯や壺屋の神様のことなどよく調べられていて感心した」「壺屋小ならではのテーマでとてもいい、自信につながる」「子ども達のおもしろい目線で新しい発見」「3年生がこんなに調べて発表できることに驚き」「家での娘と違って案外しっかりしていると感心」「自分の住んでいる地域の歴史、風景を知り、自分の言葉、考えを伝えていて感動した」「自分のまちを好きになってよかった」など声があり、児童の堂々たる発表や成長した姿に深く感動していた。
  • 「 風景学習」の活動には保護者の方がたの参加協力があり、周りの大人が地域を捉え直す機会を得ることにつながった。