沖縄の風景の特性
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本県は、亜熱帯海洋性気候の下、年間を通して温暖で、貴重な動植物が生息・生育する緑豊かな島しょ県です。
その一方、台風常襲地帯として厳しい自然と対峙してきました。また、沖縄の歴史及び文化的特性は、我が国の中でも独特のものがあります。かつて琉球王国として、中国、東南アジア諸国等との交易・交流を通じて形成された琉球文化に、戦後米国からの影響等も加わり、国際色豊かな文化、生活様式を育んできました。
沖縄の風景特性は、このような豊かで時には厳しい自然環境と、固有の歴史伝統に特徴づけられる地域特性を基本としながら、時間をかけて自然と人間の活動が相まってつくりあげてきた、地域における生活の姿そのものにあります。
このような沖縄の風景を「自然・歴史」、「地域の特性」、「人とくらし」と類型化し、また、リゾートや基地跡地利用等の大規模開発、道路・河川・海岸等の公共施設や空港・港湾等の拠点施設などによる新たに創造された沖縄の風景を「公共空間等」として類型化しました。
また、景観を構成する主要な要素や景観の広がりが共通認識できる広域の圏域として本島北部、本島中南部、本島周辺離島、宮古、八重山の5つの圏域を設定し、主要な景観資源を整理しました。
しかしながら、広大な海域に散在する島々ごとに特有の風土や文化があり個性ある地域圏を育んでいることから、具体的な風景の姿は一括りに捉えられるものではなく、それぞれが地域の自然や歴史・文化、時代の変遷を背景とした多面性を持つものとして理解する必要があります。
自然・歴史
森林・緑の稜線
本県は、亜熱帯海洋性気候の下、年間を通して温暖で、貴重な動植物が生息・生育する緑豊かな島しょ県です。特に沖縄本島北部や八重山の島々、南北大東島などでは、他県にはないめずらしい種類の植物も数多く見ることができます。「生物の宝庫」ともいわれる沖縄の森や緑の稜線は、かけがえのない大切なものですが、こわれやすいものでもあります。近年は、森林や緑地の持つ水源涵養や安全・防災などの役割も広く知られてきており、また、その豊かな自然を活かし、エコツーリズムの発信地としても注目を浴びています。
自然海岸
白い砂浜とエメラルドグリーンに輝く沖縄の自然海岸は、大切な財産です。世界に誇れる美しい海には数百種のサンゴがすみ、色あざやかな熱帯魚が群れをなして泳いでいます。周辺海域を黒潮が北上し、サンゴ礁に囲まれた海岸線には白い砂浜が広がり、青い空と相まって世界有数の海岸景観を誇っています。この自然的特性が、本県の観光・リゾートを支える最大の魅力となっています。また、美しい海は、特色ある農林水産業の振興や熱帯・亜熱帯及び海洋性に関連する学術研究の場としての活用など、多様な可能性を有しています。
世界遺産・眺望
島しょ沖縄県にとって眺望景観は大切な資源です。観光地等の美しい眺望景観に加えて歴史的な意味合いや精神文化に関わる大切な眺望景観もあります。
平成12年12月に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産に登録された主要グスク等は、世界遺産としての価値はもとより、沖縄の精神文化や歴史的資源の関係性、物語性を体感する上でも大切な景観資源及び眺望点といえます。
歴史的文化的な観点から重要となるのは、例えば斎場御嶽の三庫理(サングーイ)から久高島への眺望や、首里城から慶良間諸島及び久高島への眺望、勝連グスクから金武湾・中城湾への眺望、今帰仁グスクから国頭村安須森、伊平屋島・伊是名島への眺望、浦添グスクから久高島への眺望、識名園勧耕台から南部方面への眺望などです。また、かつて烽火(ほうか)の制によって首里城までの連絡通信を行った烽火台間の眺望も大切な景観資源となります。このことから、各地に存在するグスクや烽火台跡などは優れた眺望点といえます。
地域の特性
伝統的集落・まちなみ
自然の恵みに感謝し自然の厳しさを受け入れ、自然と共に生きてきた昔ながらの沖縄の集落景観が今なお各地に姿を残しています。赤瓦の屋根も珊瑚の石垣も屋敷を囲う福木も自然と共に生きてきた先人達の知恵の結晶であり、自然と人々がつくりだした文化がそこに感じられます。白砂の道と赤瓦の美しい町並みを残す竹富島集落が1987年に、道路よりも低く掘り下げた屋敷が特徴の渡名喜島集落が2000年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されています。首里の城下町である首里金城町は、石畳道から左右に路地が続き赤瓦の家や御嶽、樋川などが数多く点在するなど古の姿をいまに伝えています。ヤチムン(焼物)の郷・壺屋は、石垣のスージグァー(路地)や御嶽・拝所が残り、陶工たちの生活を垣間見ることができます。
その他、伊是名島や波照間島などにも伝統的な集落景観が継承されています。また、本部町備瀬集落や今帰仁村今泊集落の福木並木は見応えがあり、いつまでも残しておきたい貴重な財産です。
市街地
那覇市の中心市街地をはじめ、沖縄市等においては、戦後、自然発生的に市街地が形成されたため、都市基盤が未整備のまま過密現象が生じ都市機能の低下がみられます。一方、郊外への大型店舗の立地等に伴い、中心市街地の空洞化など商業・業務の集積地としての機能が弱まりつつあります。このため、広域的な視点に立った都市機能の再編・再整備が図られつつあります。
新市街地においては、土地区画整理事業等により道路、公園、宅地等を一体的に整備し、地域商業拠点としての機能を併せ持つ良好な住宅市街地の形成が図られてきました。今後は、コンパクトシティの観点からハード、ソフト施策の連携による過度の自動車依存の改善、電線類地中化、バリアフリーの推進等による歩行者空間の整備など良好な住環境の創出と沖縄らしい個性ある街並み景観を形成していくことが求められています。
農村風景
サトウキビ畑や熱帯果樹畑などが広がる農地・緑地の景観は、沖縄らしさを強く感じさせる農村風景です。これらの景観は、そこに暮らす人々が自然の風土と共存しつつ長い年月をかけて育んできた営みの姿であり、文化的風土景観として地域の個性を良くあらわしています。今後とも、農地・緑地が有する地域の個性や水源涵養、防災、環境形成等の多面的な機能を生かした風景づくりを進める必要があります。
人とくらし
生活景
まちの賑わいや御嶽などのその土地の風土を感じさせるものも、沖縄らしい生活の風景です。御嶽は、現在も地域の祭事行事の中心としての象徴的空間となっており、井戸、湧水源なども地域住民の心のよりどころとなっています。農村集落などでは、住民はお互いに応分の負担を持ち合って地域の運営をなし、集落防護林は、集落の水源を涵養しつつ、集落全体の居住環境を向上させる機能を有していました。台風による影響が大きいため、鉄筋コンクリート住宅が多く普及しましたが、これも沖縄独特の風景の一つです。
亜熱帯の風土に育つ草花は、ハイビスカス、デイゴ、ブーゲンビレアなど、彩度の高い原色に近い花など、鮮烈な色彩にあふれています。季節のうつろいを感じさせる樹木や緑、さとうきび畑の匂いや海に沈む夕日など、季節や時間によって風景は変化を見せ、五感に触れてきます。今後とも子どもから高齢者や障害者を問わず、誰もが心身ともに健康になれる優しい風景づくりを進める必要があります。
夜景
沖縄の夜は長く、都市では街路灯やビルの照明などが明るく、経済活力を感じる夜の風景が見られます。一方、農村では電照菊の照明や、離島集落での月明かりや星明かりに照らされる白砂の道など、美しく幻想的な風景が今も生きています。沖縄の魅力をさらに高めるために、地域の魅力を生かすライトアップや逆に人工照明を抑制することなどにより、沖縄らしい魅力的な夜の風景をつくりだすことも重要です。
伝統・芸能・まつり等
伝統的な行事、芸能、まつりなども、沖縄らしさを感じさせる風景です。エイサーやハーリーなど数多く残る沖縄の伝統行事、まつりは、生活と密着した風物詩として、沖縄らしさを彩る風景となっています。また、各地で開催されるマラソンやスポーツイベント、プロ野球のキャンプなども新しい沖縄の風景を多彩につくりだしています。
歌や三線(さんしん)は生活の一部であり、祝いのときに大勢の人と喜びを分かち合いながら、歌や三線を奏でます。また、米軍統治時代の影響を受けたオキナワンロックをはじめ、新しい音楽が次々と生み出され発信されています。そのほか、農業・漁業等のなりわいの風景がありますが、那覇市のマチグワー(市場)は、今でも陽気な雰囲気が感じられ、独特の賑わいがあります。紅型(びんがた)に代表される鮮やかな色彩の文様は日本、中国、南方系の影響をうけながら成立されたものであり、沖縄独自の文様となっています。
このような沖縄固有の伝統・文化・芸能の風景が沖縄らしさをより一層魅力的なものにしています。
「生活景」の定義
「生活の営みが色濃く滲みでた景観。特筆されるような権力者、専門家、知識人ではなく、無名の生活者、職人や工匠たちの社会的な営為によって醸成された自主的な生活環境のながめ。
(後藤春彦 早稲田大学創造理工学部教授)
公共空間等
大規模開発
本土復帰後、沖縄振興開発計画に基づき各種事業が実施される中で、国際的な海洋性リゾート地の形成や国民の総合的な健康保養の場の形成、コンベンション拠点の形成など、多様なニーズに対応した質の高い観光・リゾート地が形成されつつあります。また、世界最高水準の自然科学系の大学院大学等の形成や、健康食品産業、情報通信関連産業、環境関連産業など地域特性や優位性を生かした産業等の新規事業の創出などに向けた取り組みが進められています。米軍施設・区域については、県民の良好な生活環境の確保等、社会経済の面で大きな影響を及ぼし県土利用上の制約となっていることから、返還が予定されている駐留軍用地の跡地利用計画の策定に向けて取り組んでいます。
道路・河川・海岸
本土復帰後、沖縄振興開発計画に基づき各種事業が実施される中で、人、物、情報の交流を活発化し観光等各種産業の振興に資するよう、那覇空港自動車道、沖縄西海岸道路等、高規格道路や沖縄都市モノレールの延長整備を推進しつつあります。また、高潮や津波、波浪等による自然災害や海岸侵食から県民の生命や財産を守るため、景観や生態系など自然環境に配慮した海岸保全、河川整備に努めています。特に、都市河川やウォーターフロント等の水辺空間は多様な動植物が生息・生育する貴重な場であるとともに、都市住民に安らぎと潤いを与える貴重な空間であることから、多自然型川づくりやエコ・コースト形成等を通じて自然環境との調和に努めています。これらの社会基盤は沖縄の景観をつくる基盤としても大切です。
拠点施設
沖縄振興開発計画に基づき各種事業が実施される中で、アジア・太平洋地域の交流拠点形成に向け、国際水準の那覇空港、那覇港湾等の整備を進めています。また、離島の生活向上や産業振興などに資する新石垣空港、与那国空港等、離島空港の整備を図るとともに、それぞれの圏域の拠点としての平良港、石垣港の整備を進めています。
一方、レクリエーション需要を満たし、災害時の避難場所ともなる公園・緑地の整備を推進しており、我が国唯一の熱帯・亜熱帯公園である国営沖縄記念公園海洋博覧会地区及び琉球の歴史・文化を伝える同首里城地区とその周辺地域の整備充実を図っています。さらに、県立博物館美術館の整備等、歴史・文化などを生かした観光・リゾート産業の振興や県民の多様なニーズに対応した拠点施設を整備しています。これらの拠点施設は、沖縄の景観の印象に大きな影響を与えるものです。